[ 適正工期を事前に把握 ]
建設事業者の働き方改革や安定的な工事施工を実現するため、発注計画を施工者側へ早期に提示し、施工者側から適正工期や人員確保の見通しを踏まえた応札意向を事前に確認する「応札意向調査」を導入。
03
発注者
愛知・岐阜・三重の東海3県を地盤に、都市ガス・LPガスの製造・供給を行う大手エネルギー事業者。電力事業や暮らし関連サービスに加え、近年はカーボンニュートラルへの対応や、工場のLNG未利用冷熱を活用したサーモン養殖など多角的に事業を展開している。
取組の背景
建設業に対する時間外労働の上限規制の適用(いわゆる「2024年問題」)に当たり、4週8閉所を尊重した工期とすることで天候不順リスクの吸収が難しくなった。これは、工事の「停止期間」とインフラ企業の「安定供給」との間の大きな課題となっていた。また、深刻化する建設業界の人手不足と高齢化を背景に、持続可能な発注・施工体制を築くためには、協力会社との強固な信頼関係構築が欠かせない。従来のような発注者が施工者を「選ぶ立場」から、施工者に「選ばれる立場」への変化が求められていた。
取組のポイント
建設事業者の働き方改革や安定的な工事施工を実現するため、発注計画を施工者側へ早期に提示し、施工者側から適正工期や人員確保の見通しを踏まえた応札意向を事前に確認する「応札意向調査」を導入。
2024年問題に関して、適正な工期設定や労務費高騰への対応が発注者として必要であることを早期に経営会議で報告し、経営層と認識を共有。
動画講習の実施により、建設業界の現状や時間外労働の上限規制の適用による諸問題とともに、応札辞退や納期遅延等の自社への影響等を関係者に深く認識させることで、全社的に2024年問題に取り組む気運を醸成。
資材部と技術部が連携、対話重視の「応札意向調査」
東邦ガスは、資材部と技術部が連携し、サプライチェーン全体での「三方よし」を目指す取組を実行した。特に注力したのは、長年の商慣習であった「発注者優位」の意識改革だった。資材部が主導したのは、協力会社との対話プロセスである「応札意向調査」だ。従来は仕様決定後に納期を指定して発注していたが、近年における建設業界を取り巻く環境から応札辞退となるケースが増えてきていることを受け、計画段階で発注案件の概要を協力会社に伝えた上で、「適正な工期はどれくらいか」「この時期にこの規模の工事が可能か」など、適正な工期とともに応札の意向を確認する方式へ転換した。これにより、協力会社にとって無理のない工期設定での発注を行うことができ、協力会社も早期に発注案件の情報を得ることで人員計画を立てやすくなり、受注側の働き方改革に資する発注の仕組みと、発注側の応札辞退等のリスクを防ぐ仕組みをそれぞれ整えた。
また、この「応札意向調査」の実施に当たっては、担当メンバーに対し、社内向けの動画講習などを通じて建設業界の厳しい現状への理解を求め、この活動の意義の落とし込みと、活動を定着させるための計画・担当の複線化も実施しており、技術部から導入した当調査は2025年度から他部署にも展開した。
一方、技術部では、施工会社における労働時間短縮に資する取組として、現場の「待ち時間ゼロ」を目指したDXも推進した。ウェアラブルカメラの導入により、遠隔でリアルタイムに施工状況を確認・検査できる体制を構築し、施工会社が現場で発注者の検査員の到着を待つという非効率な対応を解消。さらに、設計・承認プロセスの電子化やリモート会議の定着により、施工管理者の移動時間を大幅に削減した。これら一連の取組は、単なるコストカットではなく、協力会社との持続可能なパートナーシップ構築を目的としている。
LNGタンク(東邦ガス発注により施工)
建設業界の人手不足などを背景として、協力会社が応札を辞退するケースが年々増加。安定的な工事施工を実現するためには、適正な工期設定を欠かすことはできない。
取組の結果、経営層をはじめとした全社員が、社会課題への対応として工期延長の必然性を一定程度理解することに繋がり、特に先行して取り組んだ資材部と技術部とでは、定期的な情報交換が継続され、調達課題に対して連携した対応が図られている。また、協力会社からは「早期の情報共有により人員配置がしやすくなった」「対等なパートナーとして尊重されている」といった好意的な反応が得られ、逼迫した市況下でも必要な施工力の確保にも繋がっている。
一方、課題としては、物価・労務費の上昇や人手不足など調達外部環境が厳しくなる中で、施工力の確保に向けて、現在取引関係のある協力会社との関係を深めるだけでなく、新規の協力会社を開拓することも必要と考えている。また、発注者として業務効率化に取り組むことも重要であり、さらなる省人化に向けた現場でのAI活用なども進めていく必要がある。
発注担当者の声
資材部資材グループチーフ井本 翔太さん
資材部は本来、価格査定や交渉事があるため協力会社から気を遣われがちな役回りですが、「応札意向調査」をきっかけに協力会社を直接訪問して話を聞くようになり、その印象も変わったと思います。以前の資材部は、こちらから協力会社を訪問することはあまりありませんでしたが、私自身、直接足を運ぶことで、人手不足の逼迫感を肌で感じることができ、意識が大きく変わりました。現在は、『協力してやりましょう』という体温のある関係が築けられるよう心掛けています。
工事担当者の声
技術部管理・機械技術グループマネージャー小塚 満さん
以前は当社の要望を優先に考え、「要望に応えられる会社にお願いする」というスタンスでしたが、今は当社が協力会社から選ばれる立場だという認識を強く持っています。受注者とWin-Winの関係を重視し、幅広い企業が参入しやすい仕様への見直しや、受注先の負担を軽減するための協力を心掛けるように指導しています。また、現場での業務効率化に関しては、特にDXは効果が大きく有効でしたので、今後は生成AIなどの活用範囲の拡大も検討し、発注者の立場から、さらなる効率化を推進していきたいと考えています。
(2026年3月作成)