時間外労働の上限規制適用猶予業種・業務に係る
働き方改革の取組
勤怠管理のDX化と年休取得を推奨
月の平均残業5時間台を実現
千葉県船橋市株式会社斉藤総業
2023年に創業50年を迎えた千葉県船橋市の株式会社斉藤総業。半世紀にわたって千葉県を中心に土木、舗装、外構、修繕などに関する公共・民間工事に携わってきた従業員12名の建設会社だ。父の事業を継いだ齋藤一昭社長の代から受注エリアを広げ、従業員を増やすなか、総務・営業担当として外部から招かれた中尾美紀専務が「働き方改革」を推進してきた。取り組むきっかけは、2016年に大きく報じられた 長時間労働が原因の過労自殺事件だったという。
過労自殺事件を他人事とせずに取り組みを始める
「すごく衝撃を受けたんです。従業員を苦しめて、死を選択するまでに追い込んだ働き方って何だろうと。そのころ当社も仕事量が増えてきて、みんな毎月30時間前後は残業していました。この会社で絶対にこのような事件を起こしてはいけない。そのために何をしたらいいのだろうと考えて、まず私が勉強することだと思いました」と中尾専務は振り返る。
弁護士や社会保険労務士らが開く「働き方改革」と名のついたセミナーを見つけては参加した。知識を増やすなかで最初に取り組んだのは勤怠管理のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化で、従業員それぞれの勤務状況が適時把握できる勤怠管理クラウドの導入だった。「それまでのタイムカードでは月末締めの後でしか、月の勤務状況が把握できませんでした。会社は従業員の働き方を管理する義務と責任があることを改めて学んで、事務機器の展示会に出向いて最良と思うシステムを採り入れました」
勤怠管理クラウドの専用アプリを入れた業務用スマートフォンを全従業員に支給。出勤、退勤をアプリから打刻申請することで、従業員は現場へ直行直帰ができるようになり、管理者は個々の労働時間をリアルタイムで把握できる。打刻時の位置情報も確認できるため、「自宅に帰って打刻したらわかってしまいます」。残業、早出、休日出勤、年次有給休暇などの申請もでき、それら入力情報は給与システムに転送され、自動的に給与計算される。こうしたDX化によって現場も管理部門も事務作業の時間が削減できた。
勤怠管理クラウドのアラート機能で残業時間を意識付け
労働時間の削減策として勤怠管理クラウドのアラート機能も活用する。月の時間外労働が20時間を超えそうになると、本人と齋藤社長、中尾専務にアラート通知が届くように設定。長時間の残業に及ぶ前に現場責任者を交えて仕事量を調整するようにした。その通知は2020年から「10時間」に設定変更したが、「今は誰一人アラートが鳴りません。働く時間を自己管理する意識が定着したのだと思います」。その結果、従業員の月平均時間外労働は2021年度が5.8時間、22年度は5.4時間にとどまっている。
土曜出勤がまだ多く残る建設業界にあって、従業員の休日を確保し、休みやすい環境づくりにも取り組んできた。同社では少なくとも毎月1日、全員が有給休暇を取ることを推奨している。月内に取得していないと本人と社長、専務にアラート通知が届く。「有給休暇は労働者の権利であり、積極的に使わないと消滅します。そうした意識を持ってもらうための設定です」。有給休暇を取りたいときは、作業の進捗や予定を確認するために開く毎週木曜の工程会議で社長や従業員に伝えて共有し、仕事を調整している。
働き方にメリハリをつける「年間休日カレンダー」
また、2019年度から1年単位の変形労働時間制を導入し、 毎年、9月の事業年度開始前に「年間休日カレンダー」を作成している。2023年度の総休日数は105日。正月は12日、ゴールデンウィークは11日、お盆は10日間の連休を設定した。「建設業は繁忙期と閑散期があるため、年間を通して休みを考えたほうが取りやすくなると思って始めました」と中尾専務は話す。
作成時は次年度の仕事状況は勘案しない。仕事を優先すると連休が組みづらくなるからだ。カレンダーの休日を避けて仕事を入れるようにしている。「仕事をするときはする、休めるときにはしっかりと休む。働き方にメリハリをつけるためのカレンダーです」。導入当初は「こんなに休みがあると仕事が終わらない」といった従業員の反発もあったが、5年を経た今は当たり前の働き方になった。社外の仕事関係者が休みを確認でき、求職者に自社の働き方を伝えるために、年間休日カレンダーはホームページで公開する。
工事部主任の岩瀬建二さんは、同社が働き方改革に取り組む前の2013年に入社した。以前と比べて一番に感じる変化は有給休暇の取得を促されることだという。「親を介護していたときもそうですし、子どもの学校行事も専務に『有給休暇を取って行ってあげなさい』と何度も言われました」。2人の娘の小中学校の授業参観には毎回夫婦で参加した。懇談会で先生とのコミュニケーションが図れたことで娘から、「お父さんが来てくれるから安心して学校に行ける」と言われた。「その言葉はうれしかったです。学校での子どもの成長を見続けられたことは本当に良かったと思います」
子どもの授業参観は毎回参加、退社後の時間で20の資格を取得
岩瀬さんの残業は毎月2、3時間ほど。その時間に抑えられるのは、「社長が工程会議で仕事を割り振ってくれるからです」と話す。仕事を抱え過ぎていたら会議の場で社長に相談する。日中の現場作業を終えた後、事務所に戻って夕方から見積書を作成するようなときは、日中にその事務作業ができるように、ほかの従業員を現場に充ててくれる。「工程会議ではみんなが意見や希望を出し合って話しやすい雰囲気があります。そうしたコミュニケーションが取れていることが効率的な働き方につながっていると思います」
定時退社した後の時間はスキルアップにも充ててきた。入社してからの10年間で、1級土木施工管理技士や2級建設機械施工管理技士など20資格ほどを取得。会社の費用負担で夜間の受験講座にも通った。「今の建設業は資格を持っていないと仕事になりません。会社の支援を受けているから一発合格しようという気持ちにもなる。資格が働くうえでの自信になっています」と会社のキャリアサポート制度に感謝する。
総務・営業担当の伊藤綾華さんは小学1年生と3歳児の子育て中のため、通常より1時間半短い9時半から16時までの短時間勤務で働いている。「子どもが歯科医に行くときは早く帰らせてもらうなど 勤務時間に融通を利かせてもらえるのでとても働きやすいです」と話す。
育児休暇明けにフルタイム勤務を求められ、勤めていた大手金融機関を退職して2022年に入社した。その前職との違いで目を引いたのは、公開されていた年間休日カレンダーだった。「前の会社ではまとまった休みは年1回だけ。それも周りの社員と調整したうえでなので、2月や3月といった子どもや夫の休みと合わない時期でした」。学校や保育園が休みのときに一緒に過ごせないストレスから解放されたという。さらに、従業員の健康を重視したイベントの充実を会社の良さとして挙げる。歩数を競い合うウォークラリーイベントに参加したり、ラジオ体操週間を設けたり。 歯科検診やストレスチェックもある。「健康的に自分に合った働き方ができる職場だと感じます」
建設業でも働き方改革ができたと胸を張れる会社になる
他社で起きた過労自殺事件を他人事とせずに取り組んできた同社の「働き方改革」。中尾専務は「周りの理解が得られたからこそ、ここまで実現できた」と語る。働き方改革のセミナーには社長と工事責任者も参加した。改革の必要性が共有でき、社内制度やシステムを整えて、従業員にメリハリのある働き方を促してきた。推進する側と従業員の距離が近い中小企業こそ、働き方改革の成果は出やすいと考えている。
同社は経済産業省が認定する「健康経営優良法人」に2020年から4年連続で選ばれ、2023年は特に評価の高い中小企業に与えられる「ブライト500」企業に選定された。中尾専務は「従業員が健康で働きやすい環境をつくることは、結果的に会社を守ることにつながると思います」と語る。長時間労働の削減が建設業でもできたと胸を張れる会社になることを目指してきたこの8年、その歩みをさらに進めていきたいという。
働き方改革のポイント
取組1
勤怠管理クラウドの導入で残業時間の「見える化」
専用アプリを入れたスマホを従業員に支給。出退勤時はアプリを使って申請、直行直帰を可能にした。
時間外労働が月10時間を超えそうになるとアラートで通知する機能も活用。
取組2
休みを重視した「月1日の有給休暇取得」と「年間休日カレンダー」
有給休暇の取得は労働者の権利という意識をもたせる。月に1日も取っていないとアラート通知が届く。
事業年度が始まる前に年間の休日を設定。休み以外の日で仕事を組む。
取組3
毎週木曜の工程会議で仕事の割り振りを調整
従業員が集まる週1回の工程会議で工事の進捗や予定を報告し共有。残業をしなくて済むように仕事量を社長が調整する。
会議で発言しやすい雰囲気が働きやすい環境をつくる。
企業データ
会社名 | 株式会社斉藤総業 |
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代表取締役社長 | 齋藤一昭 |
本社 | 千葉県船橋市 |
従業員数 | 12名(正社員10名、非正規2名=2023年7月末現在) |
設立 | 1973年 |
資本金 | 2,700万円 |
事業内容 | 道路の舗装や河川改修、上下水道など公共インフラ工事のほか、 民間の外構、造成・解体工事など千葉県内を中心に事業を展開。 |