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時間外労働の上限規制適用猶予業種・業務に係る
働き方改革の取組

業務の標準化と先進的DXで
月の平均残業時間1.4時間を達成

新潟県長岡市小柳建設

新潟県長岡市 小柳建設 創業80年を迎える小柳建設。先進的な改革を進めている

新潟県長岡市の小柳建設は1945年創業でまもなく創業80年を迎える。土木と建築を中心に、浚渫事業や埋蔵文化財調査事業などでも特色を持つ総合建設業を展開。全国21の営業所、従業員218名を有している。3代目となる現・小柳卓蔵社長が人事管理本部長時代の2012年頃から、人手不足や長時間労働などの課題を持つ建設業界のイメージアップと、働きやすい環境づくりが必要だと感じ、「全従業員とその家族の物心両面の幸福を追求する」という経営理念の実現に向けた改革に着手した。

113項目の行動指針を社員に徹底

「建設業はきつい、汚い、危険の『3K』と言われて、高齢化社会になる中でイメージを改善しないと将来的に担い手不足になるという危機感があった」と月岡良一総務部長は語る。最初に手を付けたのは社員の精神面の改革だった。

そこで、以前からあった経営理念を現代風にリライトして「事業を通じて人類・社会の進化・発展に貢献すると同時に、全従業員とその家族の物心両面の幸福を追求し、誇りをもって会社を後世に伝えるものとする」と定めた。

「建設業のイメージを改善しないと担い手不足になるという危機感があった」と語る月岡良一総務部長 「建設業のイメージを改善しないと担い手不足になるという危機感があった」と語る月岡良一総務部長

さらに、経営理念を実現し、生産性を向上させるための113項目の行動指針をつくり、それを手帳にして全社員に配布した。「制度や体制を変えるだけでは組織は変わらない。指針に基づき行動するという体験を通じて成長していくために、毎日の朝礼の中で社員が、いくつかの項目に対して実践体験を発表して、役員からフィードバックをもらうことを繰り返しました。他の社員も聞いているだけで学びがあるので、意識改革につながった」と月岡部長は説明し、その成果として「時間当たりの売り上げを高めるために、どうしたら残業時間を減らし、休みやすく、隣にいる人が働きやすい職場になるかということを社員一人一人がしっかりと考えるようになった」と語る。

業務の属人化を防止

残業時間の短縮に効果的な対策として導き出されたのが、「業務の属人化の防止」だった。「『この人がいないと、この業務ができない』というようなことがあると、待ちの時間や無駄な作業が発生してしまうので、現場だけでなく内勤でも全ての部門で属人化をなくすため、業務の標準化に取り組みました」と月岡部長は言う。

この業務の標準化を促進するため、同社ではDXに取り組んだ。2016年から、チャットツールを使ってチームの情報共有を行い、クラウドアプリを使って業務の共有を行った。これによって誰もがカバー出来る状況が実現し、会社の業務全体が効率化された。

また、同社では、生産性の改善のため、企業をチームに分け、そのチームを独立採算で運営する「アメーバ経営」に取り組んでいたことも業務の属人化の解消につながった。「チーム内でいくつかの現場を持っていて、全体で生産性が上がるように、一つの現場でフォローが必要であれば、別の現場からサポートする。業務が標準化されていて、誰かが休んでも、他の人で同じようにできるような仕組みになっていることが働きやすい職場づくりになるということです」と月岡部長は解説する。

時間と空間を効率化する先進的なDX

DXはそれまで不十分だった業務実態の把握にもつながった。月岡部長は「従来のタイムカード方式では、“見えない残業”などで、数値化できない部分があり、残業時間も30時間以上あった。デジタルの導入で見える化することが改善につながった」と語る。

同社のDXの取組は、さらなる進化へつながる。専用ゴーグル型端末を装着すると、目の前に3D映像のリアルな工事現場が再現されるアプリケーション「ホロストラクション」を、同社のDXをサポートした企業と共同開発した。現場まで足を運んで、「紙の図面や1カ月以上かけて作った模型を見ながら行っていた施工イメージの共有が、映像を見ながら遠隔でできるようになり、移動時間と会議の時間が短縮できた。実証実験では、移動と会議に取られていた時間が半分になるという結果が出た。土木作業の現場などでは、危険箇所のシミュレーションもできるので、安全な施工にもつながっているという。

3D映像のリアルな工事現場が再現されるアプリケーション「ホロストラクション」 3D映像のリアルな工事現場が再現されるアプリケーション「ホロストラクション」

このような徹底した効率化と先進的なDXによる生産性の向上の努力により、利益率を重視した受注の管理が可能になった。現状の人員で高い品質の施工をするのに適切な仕事のボリュームを算出し、受注をコントロールして、一時期100億円以上あった売り上げを約70億円にとどめながら、利益はむしろ向上させているという。向上した分を賞与などで支給することで、労働時間は削減されているのに収入(年収)はどんどん上がっているという状況を実現した。既に業務改善が進んでいた2018年に月平均7.2時間だった残業時間が、2023年にはなんと1.4時間になったという。

自由な時間を活用して資格取得のキャリアアップに

入社3年目で施工管理を担当している建築工事部の坂井真唯さんは建築系の専門学校を卒業した。「元々設計志望で、建設業はブラックというイメージを持っていて、施工管理は志望していなかったのですが、会社説明会で社長が『チーム制で属人化をなくしている』と言っているのに感動して、年次有給休暇の取得率も高いことにも引かれました」と入社の理由を明かす。

自由に使える時間を資格取得の勉強に当てているという建築工事部の坂井真唯さん 自由に使える時間を資格取得の勉強に当てているという建築工事部の坂井真唯さん

「実際入社して、残業も全くなかった。定時になると、上司や先輩たちが『時間だからみんな帰ろう』って言って帰ってしまうので、こちらも気楽に帰れます」と語る。

坂井さんは、残業もなく自由に使える時間を資格取得の勉強に当てているという。受験費を会社が負担するなど支援制度もあり、坂井さんがチャレンジしている施工管理技士1級に合格すると報奨金50万円が支給されるので、スクールなどで学んで資格を取得する社員もいるという。「お祝いをもらえるので、すごくモチベーションが上がるし、キャリアアップにもなる」とうれしそうだ。

「部長が『息子のサッカーの試合を見に行く』といって休むなど、みんなどんどん休んでいるので、自分も休みやすい。これから結婚や出産をしても大丈夫だと思います」と笑顔を見せる。

内面の変化で仕事を“断捨離”

入社12年目で広報・採用を担当するPR部長の堂谷紗希さんは「入社した頃は改革が始まったばかりで、今とは真逆といっていいほど“3K”の職場でした」と振り返る。「今思ったら恥ずかしい話ですけど、時間の感覚が違っていて、一応午後5時までと言いつつ、7時ぐらいまでにやればいいというふうに残業が当たり前だった。いまでは逆に5時までに終わらせるために、仕事の断捨離をしたり、優先順位をつけたり、必死です」と苦笑する。

改革の実現は「内面の変化が大きい」と語るPR部長の堂谷紗希さん 改革の実現は「内面の変化が大きい」と語るPR部長の堂谷紗希さん

こうした改革を実現できたのは「やはり内面の変化が大きい」という。「労働時間を短縮することでどんないいことがあるのかということをみんながイメージできているので、実際の行動に移すことができて、実績も残せているのだと思います」と言い切る。

「昔は社会人って、病気にならないと休んではいけないと思っていました。風邪を引いても熱がなければ無理して会社に行かなきゃいけないと思っていましたが、最近は『旅行に行ってきます』とか、『お友達と遊ぶので』という理由でも休めるようになりました」と自身の変化を語る。そして「常に自分がどんな仕事をどこまでやっているかを、タスク管理ツールでリアルタイムに共有していて、仕事が人に付いていないからこそ休めるのだと思います」と改革の成果を実感している。

一人一人が課題解決できる力を高め、より働きやすい会社に

改革への着実な歩みで、残業時間の削減以外に、年次有給休暇取得率も78%まで上昇し、2021年から男女問わず育児休暇取得率100%を達成している。社員の平均年収はアップと合わせて、社員の満足度も上がり、離職率は4%まで低下。採用面でも、応募者数が増加し、建設業界の中で高い評価を得るようになったという。

さらなる働きやすい環境づくりに向けて、2024年から病気治療と仕事の両立支援、介護休暇制度の拡充、時間単位の有給休暇取得制度の導入などを進めている。月岡部長は「今後は、社員一人一人が課題を発見し、解決できる力を高めることがテーマになる。それが進めば、生産性が向上し、社員に利益が還元されて、より働きやすい環境になって、長く働ける会社になっていく」と先進的な改革を続けていく決意を述べた。

ユニークなデザインの小柳建設の加茂オフィス ユニークなデザインの小柳建設の加茂オフィス

働き方改革のポイント

取組1

経営理念の徹底で社員の意識を改革

経営理念を実現する113項目の行動指針を社員に徹底。働きやすい職場づくりへの意識を改革した。

取組2

仕事の“属人化”を防ぎ、チームで対応

チーム制を導入し、業務を標準化する。誰かがフォローできるようにして、休みやすい環境をつくる。

取組3

先進的なDXの推進で業務を効率化

ツールを活用して社内の情報共有を推進。3D映像を見ながら遠隔で打ち合わせができるアプリを開発して、業務を効率化する。

企業データ

会社名 小柳建設株式会社
代表取締役社長 小柳 卓蔵
本社 新潟県三条市
創業 1945年(昭和20年)11月
資本金 1億円
従業員数 従業員218名(正規155名、非正規63名=2024年4月現在)
事業内容 土木と建築を中心に、浚渫事業や埋蔵文化財調査事業などでも特色を持つ総合建設業を展開
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